江戸・東京 食の原点「魚河岸」
右から威勢よく駆けてくるのは魚を担ぐ棒手振り。中央には真っ赤な蛸が入った籠を肩に乗せた男が丸いお腹を出して突っ立っています。左端には巨大な魚をぶら下げて運ぶ二人組み。勇ましく働く男たちが行き来する中、二本差しの武士や女性たち、親子連れに犬の姿もあります。歌川國安による「日本橋魚市繁榮圖」には、多くの人で賑わう日本橋・魚河岸の様子が左右いっぱいにいきいきと描き出されています。
日本橋は江戸城の外堀と隅田川の河口を繋ぐ地点に位置するいわば江戸の水上交通の要でした。日本橋とその東に架かかる江戸橋までの北岸には「魚河岸」が広がり、江戸の人のみならず、地方から見物に訪れる人も多かったとか。浮世絵にも様々な角度から描かれているので見比べてみるのも一興です。中でもこの、「日本橋魚市繁榮圖」は、魚河岸に連なる納屋の中まで描かれている貴重な作例。斜めにしつらえた板舟の上に、ぶつ切りにされたマグロや平たいカレイなどの魚が並んで売られている様子がよくわかります。板舟の上や男が担ぐ桶の中のアワビに注目してみてください。とてつもない大きさに驚かされます。 画面の右端には小さな店が描かれていますが、よく見ると暖簾に「寿」の文字が。気軽に立ち寄って、ぱっと食べることができるおすし屋さんのようです。魚河岸で食べるおすしは格別だったことでしょう。さらに目を凝らすと暖簾の向こうに人の姿が見えますので、すでに来客中のようですね。