ロマン溢れる店名は、与謝野鉄幹・晶子夫妻が名付け親
「月光荘画材店」の創業者・橋本兵蔵氏は、下積みの頃から歌人の与謝野鉄幹・晶子夫妻に目を掛けられていました。氏の独立に際し、晶子は「大空の 月の中より君来しや ひるも光りぬ 夜も光りぬ」という一首を贈り、鉄幹が「月光荘」と名付けたといいます。看板も晶子の自筆の文字。兵蔵氏は多くの文化人と親交を持ち、店を訪れる人々からは「月光荘おじさん」と慕われてきた伝説の人物。画材づくりでも一切妥協を許さない人でした。
同店は1917年(大正6年)に新宿で開業し、戦後2度の移転を経て、現在の銀座8丁目・花椿通りに移ったのは2006年(平成18年)のこと。ベルギー産レンガでつくられたファサードが、一際目を引きます。3代目店主に日比康造さんが就任した2017年(平成29年)に、店舗を改装。「ヨーロッパのデリカテッセンを参考に、色とりどりの画材をワクワク選べる明るい店内になりました」と、広報・後藤麻衣子さんが教えてくれました。
創業者・橋本兵蔵氏ゆかりの品々に潜む逸話
「月光荘画材展示館」は地下にあり、パリにでもありそうなお洒落なカフェスペースとの併設になっています。レトロでシックな雰囲気に浸り、喫茶しながらゆっくり鑑賞したくなる、味わいのある空間。そこに同店の歴史を紐解く、貴重な資料が並んでいます。藤田嗣治が設計の監修をした、創業時のモダンな新宿店の写真などは額装され、壁面に美しく構成されています。逸話が残る、開発当初の画材道具もディスプレイされています。マッカーサーも関心を寄せた戦時中の油絵の具、ピカソが羨んだという筆洗器などなど。
ブルー1色で描かれた「寄せ書き」も見逃せません。これは、兵蔵氏が1940年(昭和15年)の戦時中にも関わらず、純国産でコバルトブルーの油彩絵の具の製造に成功し、その祝いに友人から寄せられたもの。猪熊弦一郎や中川一政など錚々たる画家が名を連ねた逸品で、兵蔵氏の偉業と、画家たちとの深い交流を容易に想像させる展示品です。
画材だけではなく、暮らしに根ざした美意識の提案
同店の製品は、すべてがオリジナルです。創業者が開発した画材も、改良を重ねつつ現在もつくり続けられています。画材だけでなく、エスプリの効いた絵葉書や便箋、封筒ほかコーヒーカップやグラスなど、絵を描かない人も楽しめるグッズも豊富です。「暮らし全般を豊かに、彩りを添える」という創業者の方針は、頑なに守られているのです。
また、全製品に「ホルン」のトレードマークが入っているのも特徴です。考案には、与謝野夫妻を中心とした文人グループ(小山内薫、芥川龍之介、有島武郎らが参加)の多くの仲間が関わりました。ホルンは昔、西欧の貴族たちが狩猟のとき、仲間と連絡を取り合うために吹き鳴らした楽器です。つまり、「友よ集まれ」という気持ちを表したもので、暮らしに美を求める人たちに向けて、ホルンは今も高らかに鳴り響いています。
お話を伺った方
広報後藤 麻衣子さん
■展示館インフォメーション | ||||
月光荘画材展示館管理者:株式会社 月光荘画材店(令和元年度認定) | ||||
住所 | 東京都中央区銀座8-7-2 永寿ビル1F、B1F地図 |
開館日 | 年末年始等を除く毎日 | |
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電話 | 03-3572-5605 | 開館時間 | 月~金曜日/11:00~18:00、 土・日・祝日/11:00~17:00 |
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HP | http://gekkoso.jp/ | 最寄り駅 | 新橋駅3番出口 徒歩3分 銀座駅A1番出口 徒歩8分 |