つづらの伝統を守り抜く都内唯一の店
つづらは、竹で編んだ竹かごに和紙を貼り、柿渋や漆を塗り重ねてつくられた収納具です。江戸元禄時代(1688~1704年)に婚礼の道具としてつくられ、庶民にも広まっていきました。軽く丈夫、通気性もよく防虫効果もあることから衣類などの収納に大変重宝され、戦前まではどの家庭でも当たり前のように使われていました。呉服の街として繁栄した日本橋界隈には多くのつづら店が存在していたそうです。
しかし、生活様式の変化などで昭和初期には関東に250軒ほどあったつづら店も、「今では都内にうち一店だけになってしまいました」と語るのは『つづら学習館』を開設した『岩井つづら屋』の6代目当主・岩井良一さんです。その一方で、従来の規格外の大きさや、新しい用途の目的での製作依頼が増えたり、訪日外国人が伝統工芸品のひとつとして関心を寄せたりと、新しい動きもあるのだそうです。
手間暇かけた工程も一目瞭然の展示
古き良き下町の情緒漂う散歩道、人形町の甘酒横丁に同店はあります。明治には曽祖父がこの地に店を構えていましたが、創業は文久年間まで遡るといいます。お店は2014年に改装され、グレーのタイル張りの外装はとてもシンプルでモダンなつくり。店内の半分ほどが小上がりの作業場になっています。
店内は広くはありませんが、壁面を活用したショーケースにはつづら製作の工程の解説や道具のミニチュアもわかりやすく展示されています。作業場後ろの棚には2尺、3尺などサイズ別に完成品が並び、黒、赤、茶色の漆独特の美しい光沢を湛えて注文主に引き取られるのを待っています。土間には、つづらのベースとなる竹で編んだ竹かごが積まれています。作業場の天井には製作中のものがたくさん掛けられていて、取材に伺った時は手漉き和紙を貼り終えたものが吊るされていました。
伝統の職人技に魅了される
『つづら学習館』は、展示物のみならず、空間全てが展示館と言えるかもしれません。そして何よりの魅力は店主の作業も拝見できるということです。「一つのつづらが完成するのに5日間を要して、ひと月に作れるのは60個ぐらいですね」と語りながらも、手際良く作業を進める岩井さんの熟練の技には思わず見入ってしまいます。ただ、週に1日はホコリを嫌う漆を塗る日なので、訪問は遠慮したほうがいいでしょう。
「店に入りにくいという方も多いので、毎月第2土曜日と日曜日に『つづらやさんの和雑貨市』をやっています」と教えてくれたのは店主の弟・恵三さんでした。「気軽に店に入れるように手作りの和雑貨を並べています。つづらは予約販売ですが、小さなものなら少量揃えています」とのことです。伝統工芸品つづら作りを守り、親しんでもらえるよう努力が続けられています。
お話を伺った方
6代目当主岩井 良一さん
■展示館インフォメーション | ||||
つづら学習館管理者:有限会社 岩井商店(平成30年度認定) | ||||
住所 | 東京都中央区日本橋人形町2-10-1地図 | 開館日 | 月〜土曜日(祝日・年末年始等を除く) ※つづら制作のため入店できない 場合があります |
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電話 | 03-3668-6058 | 開館時間 | 10:00〜17:00 | |
HP | https://tsudura.com/ | 最寄り駅 | 人形町駅A2番出口 徒歩3分 |