浮世絵を絶滅から救い、新ジャンルを築いた版元
世界的なショッピングエリア銀座は、芸術の街でもあり、国内有数のアートスポットとしての顔も持ち合わせています。とくに並木通りには、多くのギャラリーや画廊が存在しています。その中で、この店を抜きに、浮世絵など日本の木版画の歴史を語ることはできないのが、銀座8丁目の『渡邊木版美術画舗』です。
「私の祖父・庄三郎は、1909年(明治42年)に浮世絵専門の版元として開業し、主に浮世絵の輸出で成功します」と語るのは、3代目社長・渡邊章一郎さん。そして、浮世絵のさらなる隆盛を目指して、庄三郎氏は、新しい浮世絵づくりを模索していったといいます。
芸術性を求めた「新版画」の誕生まで
庄三郎氏の「芸術性の高い、新しい浮世絵版画をつくろう」という提案に賛同する日本人画家は、現れません。そこで着目したのが、当時日本を訪れていた外国人画家でした。フリッツ・カペラリらと組んで制作した版画が評判となり、これを機に橋口五葉、伊東深水、川瀬巴水らが参加。浮世絵と同じ版画技術を用いつつ、大正中頃から「新版画運動」と後世呼ばれる、新時代の浮世絵が次々に発表され、大ヒットしました。
新版画の特徴は、なんといっても色調の美しさにあります。多色の木版を40回以上重ね摺りして生まれる深みのある色合いは、新版画ならでは。遠近法を取り入れたリアルな描写でありながらも、独特の温かみが伝わってきます。江戸の浮世絵師 歌川広重の作品に通ずる構図の捉え方なども見出すことができる新版画には、新しさと同時に日本の風情が色濃く漂っています。
世界の美術品となった日本の木版画
『渡邊木版画展示館』は、誰の目にも入りやすい店先の両側と、店内のすぐ右側のショーケース3つで構成されています。木版画に用いられる道具類から版画制作の工程、店の歴史、新版画の作品などが、解説とともに展示され、木版画への関心が喚起されていきます。
同店は数少ない版元として、現在も摺師を雇い、浮世絵の複製や新版画を制作販売していますが、自画自刻の現代的な創作版画も取り扱っています。近年ではスティーブ・ジョブスの橋口五葉や川瀬巴水などのコレクションが話題になり、ダイアナ妃の執務室にも吉田博の作品が飾られていたことも知られて、新版画は再び世界的に注目されています。しかし、渡邊さんは「もっと日本の方にも観ていただきたいのです」といい、そのために気軽に店内に入れるよう、真夏と真冬以外は、いつも入り口は開け放っているとのことでした。店内には、浮世絵にはじまり巴水らの新版画、気鋭の創作版画まで所狭しと陳列されていますが、グリーティングカードやカレンダーなども揃い、世界的に評価の高い日本の木版画が、ちょっと身近に感じられます。
お話を伺った方
3代目社長渡邊章一郎さん
■展示館インフォメーション | ||||
渡邊木版画展示館管理者:株式会社 渡邊木版美術画舗(令和元年度認定) | ||||
住所 | 東京都中央区銀座8-6-19地図 | 開館日 | 月〜土曜日(年末年始等を除く) | |
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電話 | 03-3571-4684 | 開館時間 | 月~土/11:00~18:30 祝日/11:00~17:00 |
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HP | https://www.hangasw.com/ | 最寄り駅 | 新橋駅3番出口 徒歩4分 銀座駅B3番出口 徒歩8分 |